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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)7801号 判決

原告 富国交通株式会社

被告 江森茂一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者双方の申立および事実の主張

別紙「当事者双方の申立および事実の主張」と題する書面のとおり。

二  証拠〈省略〉

理由

一  請求の原因の(一)の事実は、当事者間に争がない。

二  成立に争のない甲第二、三号証、甲第一六号証の一ないし五、甲第一七号証の一、二、甲第一八号証の一、二、甲第二〇号証、乙第一号証、証人本多武夫の証言により成立を認めうる甲第一九号証および甲第二一号証ならびに証人本多武夫同井上達夫、同鳥居鉞および同橋本末吉の証言を総合すると、藤原文雄は昭和二六年一〇月以降昭和二八年一月一二日頃までの間原告から金銭を借り受ける一方、原告会社代表取締役として原告会社の金銭を保管中ほしいままにこれを自己の用途に費消した結果として、これら借受金および費消金の総計が少なくとも金一〇〇万円にのぼつていたこと、および原告は昭和二八年一月一二日頃藤原に対する叙上の債権の弁済を受けるのに代えて藤原から同人の有していた本件株式を含む原告会社の株式四万株の譲渡を受けたことを認めることができる。被告は、本件株式は被告が藤原から無償で譲り受けたものであると主張し、成立に争のない甲第一号証の一四、一六、一七、二一および二三によると、原告会社の株券台帳と題する帳簿には本件株式が石川達三から被告に譲渡された旨の記載のあることを認めうるが、前掲援用の各証拠を参しやくして考えると、この記載は、被告が原告会社の代表取締役に就任した後、原告の経理事務担当者であつた井上達雄が原告の命により日付をさかのぼらせて記入したものであることをうかがいうるので、被告の右主張事実を認める証拠とすることはできないし、また、右主張にそうような被告本人尋問の結果は前掲援用の各証拠と対比して容易に採用しがたく、他に前述の認定を左右するに足りる証拠はない。

三  しかしながら、叙上認定のとおり、本件株式は原告が代物弁済契約により藤原文雄から任意に取得したものであるのみならず、前記鳥居鉞の証言によると、当時藤原は、本件株式のほか不動産および借地権等の財産をも有していたことが認められる。したがつて、原告の本件株式の取得は、商法第二一〇条第三号にいう会社の権利の実行に当りその目的を達するため必要なるときに該当するものとは認めがたいからいわゆる自己株式の取得として無効で、原告は本件株式につき株主権を取得しえないものといわなければならない。

四  よつて、その他の点について判断するまでもなく、本件株式の株主権にもとづく原告の請求を失当として棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部高顕 八木下巽 宍戸達徳)

別紙

当事者双方の申立および事実の主張〈省略〉

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